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病院・医療法務

2016/03/01
速報・認知症の男性が徘徊し、列車に衝突して死亡した事案で、男性の妻及び長男の賠償責任を認めなかった事案(平成28年3月1日 第三小法廷判決)
判例概要
本件は,認知症にり患したA(当時91歳)が旅客鉄道事業を営む会社であ るXの駅構内の線路に立ち入りXの運行する列車に衝突して死亡した事故(以下「本件事故」という。)に関し,Xが,Aの妻であるY1(当時85 歳)及びAの長男であるY2に対し,本件事故により列車に遅れが生ずるなどして損害を被 ったと主張して,民法709条又は714条に基づき,損害賠償金719万774 0円及び遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
Yらがそれぞれ同条 所定の法定の監督義務者又はこれに準ずべき者に当たるか否か等が争われている。
判旨民法858条の身上配慮義務は、成年後見人が契約等の法律行為を行う際に成年被後見人の身上について配慮すべきことを求めるものであって,成年後見人に対 し事実行為として成年被後見人の現実の介護を行うことや成年被後見人の行動を監督することを求めるものと解することはできない。→成年後見人であることにより、714条の監督義務者に当たるということはできない。
民法752条は,夫婦の同居,協力及び扶助の義務について規定しているが,そのことから直ちに第三者との関係で相手方を監督する義務を基礎付けることはできない。
したがって,精神障害者と同居する配偶者であるからといって,その者が民法7 14条1項にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たるとすることはできない。

もっとも,法定の監督義務者に該当しない者であっても,責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし,第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められ る場合には,衡平の見地から法定の監督義務を負う者と同視してその者に対し民法 714条に基づく損害賠償責任を問うことができるとするのが相当であり,このよ うな者については,法定の監督義務者に準ずべき者として,同条1項が類推適用されると解すべきである(最高裁昭和56年(オ)第1154号同58年2月24日 第一小法廷判決・裁判集民事138号217頁参照)。その上で,ある者が,精神障害者に関し,このような法定の監督義務者に準ずべき者に当たるか否かは,その者自身の生活状況や心身の状況などとともに,精神障害者との親族関係の有無・濃淡,同居の有無その他の日常的な接触の程度,精神障害者の財産管理への関与の状況などその者と精神障害者との関わりの実情,精神障害者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容,これらに対応して行われている監護や介護の実態など諸般の事情を総合考慮して,その者が精神障害者を現に監督しているかあるい は監督することが可能かつ容易であるなど衡平の見地からその者に対し精神障害者 の行為に係る責任を問うのが相当といえる客観的状況が認められるか否かという観点から判断すべきである

これを本件についてみると,Aは,平成12年頃に認知症のり患をうかがわせる症状を示し,平成14年にはアルツハイマー型認知症にり患していたと診断され,平成16年頃には見当識障害や記憶障害の症状を示し,平成19年2月には要介護状態区分のうち要介護4の認定を受けた者である(なお,本件事故に至るまでにAが1人で外出して数時間行方不明になったことがあるが,それは平成17年及 び同18年に各1回の合計2回だけであった。)。Y1は,長年Aと同居していた妻であり,…Aの介護に当たって いたものの,本件事故当時85歳で左右下肢に麻ひ拘縮があり要介護1の認定を受けており,Aの介護もB(Y2の妻)の補助を受けて行っていたというのである。そうすると, Y1は,Aの第三者に対する加害行為を防止するためにAを監督するこ とが現実的に可能な状況にあったということはできず,その監督義務を引き受けていたとみるべき特段の事情があったとはいえない。したがって,Y1 は,精神障害者であるAの法定の監督義務者に準ずべき者に当たるということはで きない。
また,Y2は,Aの長男であり,Aの介護に関する話合いに加わ り,妻BがA宅の近隣に住んでA宅に通いながらY1によるAの介護を 補助していたものの,Y2自身は,横浜市に居住して東京都内で勤務し ていたもので,本件事故まで20年以上もAと同居しておらず,本件事故直前の時 期においても1箇月に3回程度週末にA宅を訪ねていたにすぎないというのであ る。そうすると,Y2は,Aの第三者に対する加害行為を防止するため にAを監督することが可能な状況にあったということはできず,その監督を引き受けていたとみるべき特段の事情があったとはいえない。
したがって, Y2も,精神障害者であるAの法定の監督義務者に準ずべき者に当たるということはできない。
監督責任について民法上不法行為責任を負わせるには、責任能力が必要とされている。
責任能力の欠如を理由に不法行為者本人に対して損害賠償請求をすることができない場合は、責任無能力者の監督者が原則として損害賠償責任を負うものとされている。監督者は監督義務を怠らなかったことを立証しない限り、かかる責任を免れ得ない。
714条の規定については、12歳2ヶ月の少年が射的銃で友人を失明させた事件など古くは未成年者について問題となることが多かった。また、加害行為を行った未成年者に責任能力があると言わざるを得ない場合について、未成年者は資力に乏しく、709条により親の責任を直接認めた判例もある。
しかし、高齢化社会において今後は本件のような認知症患者の監督責任が問題となるケースが増えると予想される。最高裁判所は、その者が精神障害者を現に監督しているかあるいは監督することが可能かつ容易であるなど衡平の見地からその者に対し精神障害者 の行為に係る責任を問うのが相当といえる客観的状況が認められるか否かという基準を考慮要素と共に示しており、今後、監督者責任が問題となった場合における判断の指針を示したものと言える。
備考http://www.courts.go.jp/saikosai/vcms_lf/rinji_hanrei_280301.pdf

(責任能力)
第七百十二条  未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。
第七百十三条  精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。
(責任無能力者の監督義務者等の責任)
第七百十四条  前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2  監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。
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