職場における性的な内容の発言等によるセクシュアル・ハラスメント等を理由としてされた懲戒処分が懲戒権を濫用したものとはいえず有効であるとされた事例(最高裁平成27年2月26日)|企業法務|法律事例/判例集

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病院・医療法務

2016/02/19
職場における性的な内容の発言等によるセクシュアル・ハラスメント等を理由としてされた懲戒処分が懲戒権を濫用したものとはいえず有効であるとされた事例(最高裁平成27年2月26日)
ポイント
・セクハラ加害者が,被害者から明確な拒否の姿勢を示されていなかったことや会社から事前に警告や注意等を受けていなかったことを加害者にとって有利な事情として斟酌しなかった。(原審はかかる事由を考慮して、懲戒解雇の次に思い出勤停止処分を課すことは重きに失するとしていた。)(コメント:そういうことを有利に斟酌する原審の判断が少し時代遅れで気持ち悪いというのが個人的な感想ですが。)
・言葉によるセクハラに対する社会の意識改革やセクハラ防止に向けた企業の取組みの更なる充実の必要性を法規範的な判断を通じて明らかにした。
・なお,判決が事案のような言葉によるセクハラについて一般的に出勤停止以上の懲戒処分が相当であるとする趣旨のものではない。本件事案の事実関係等に照らして30日,10日の出勤停止という処分の料亭が使用者の裁量の範囲内に属するものとして是認されうることを判示した。
事案の概要男性従業員であるXらが,それぞれ複数の女性従業員A,Bに対して性的な発言等のセクシュアル・ハラスメント(以下「セクハラ」という。)等をしたことを懲戒事由として水族館を経営するYから出勤停止の懲戒処分(以下「出勤停止処分」という。)を受けるとともに,これらを受けたことを理由に下位の等級に降格されたことから,Yに対し,上記各出勤停止処分は懲戒事由の事実を欠き又は懲戒権を濫用したものとして無効であり,上記各降格もまた無効であるなどと主張して,上記各出勤停止処分の無効確認や上記各降格前の等級を有する地位にあることの確認等を求めた。
X1は,平成3年にYに入社し,同21年8月から営業部サービスチームのマネージャーの職位にあり,同24年3月当時,Yの資格等級制度規程に基づき,M0(課長代理)の等級に格付けされていた。
X2は,平成4年にYに入社し,同22年11月から営業部課長代理の職位にあり,同24年2月当時,本件資格等級制度規程に基づき,M0の等級に格付けされていた。
平成23年当時,Yの従業員の過半数は女性であり,本件水族館の来館者も約6割が女性であった。また,上告人は,職場におけるセクハラの防止を重要課題として位置付け,かねてからセクハラの防止等に関する研修への毎年の参加を全従業員に義務付けるなどし,平成22年11月1日には「セクシュアルハラスメントは許しません!!」と題する文書(以下「セクハラ禁止文書」という。)を作成して従業員に配布し,職場にも掲示するなど,セクハラの防止のための種々の取組を行っていた。
Yの就業規則には,社員の禁止行為の一つとして「会社の秩序又は職場規律を乱すこと」が掲げられ(4条(5)),就業規則に違反した社員に対しては,その違反の軽重に従って,戒告,減給,出勤停止又は懲戒解雇の懲戒処分を行う旨が定められていた(46条1項)。また,社員が「会社の就業規則などに定める服務規律にしばしば違反したとき」等に該当する行為をした場合は,上告人の判断によって減給又は出勤停止に処するものとされていた(46条の3)。
セクハラ禁止文書には,禁止行為として「①性的な冗談,からかい,質問」,「③その他,他人に不快感を与える性的な言動」,「⑤身体への不必要な接触」,「⑥性的な言動により社員等の就業意欲を低下させ,能力発揮を阻害する行為」等が列挙され,これらの行為が就業規則4条(5)の禁止する「会社の秩序又は職場規律を乱すこと」に含まれることや,セクハラの行為者に対しては,行為の具体的態様(時間,場所(職場か否か),内容,程度),当事者同士の関係(職位等),被害者の対応(告訴等),心情等を総合的に判断して処分を決定することなどが記載されていた。上告人において,セクハラ禁止文書は,就業規則4条(5)に該当するセクハラ行為の内容を明確にするものと位置付けられていた。
平成24年2月及び3月当時の本件資格等級制度規程には,M0(課長代理),S2(係長,主任)等の等級が定められ,社員が精神若しくは身体上の故障のため当該等級に該当しないとみなされたとき,等級に格付けされた後も職務遂行能力が甚だしく低く当該等級への格付けが不適当と認められたとき,又は就業規則46条に定める懲戒処分を受けたときは,社長,専務取締役及び総務部長により構成される審査会における降格に係る審査を経て降格を相当とされた社員につき,社長が降格の決定をする旨が定められていた。
Xらは,従業員Aらに対し,平成22年11月頃から同23年12月までの間に,下記行為一覧表のとおりの行為(以下「本件各行為」という。)をした。
 なお,X2は,以前から女性従業員に対する言動につき社内で多数の苦情が出されており,また,平成22年11月に営業部に異動した当初,上司から女性従業員に対する言動に気を付けるよう注意されていた
判旨本件各行為の内容についてみるに,X1は,営業部サービスチームの責任者の立場にありながら、下記行為一覧表のとおり,従業員Aが精算室において1人で勤務している際に,同人に対し,自らの不貞相手に関する性的な事柄や自らの性器,性欲等について殊更に具体的な話をするなど,極めて露骨で卑わいな発言等を繰り返すなどしたものであり,また,X2は,上司から女性従業員に対する言動に気を付けるよう注意されていたにもかかわらず,下記行為一覧表のとおり,従業員Aの年齢や従業員Aらがいまだ結婚をしていないことなどを殊更に取り上げて著しく侮蔑的ないし下品な言辞で同人らを侮辱し又は困惑させる発言を繰り返し,派遣社員である従業員Aの給与が少なく夜間の副業が必要であるなどとやゆする発言をするなどしたものである。このように,同一部署内において勤務していた従業員Aらに対し,被上告人らが職場において1年余にわたり繰り返した上記の発言等の内容は,いずれも女性従業員に対して強い不快感や嫌悪感ないし屈辱感等を与えるもので,職場における女性従業員に対する言動として極めて不適切なものであって,その執務環境を著しく害するものであったというべきであり,当該従業員らの就業意欲の低下や能力発揮の阻害を招来するものといえる。
 しかも,Yにおいては,職場におけるセクハラの防止を重要課題と位置付け,セクハラ禁止文書を作成してこれを従業員らに周知させるとともに,セクハラに関する研修への毎年の参加を全従業員に義務付けるなど,セクハラの防止のために種々の取組を行っていたのであり,Yらは,上記の研修を受けていただけでなく,Yの管理職として上記のようなYの方針や取組を十分に理解し,セクハラの防止のために部下職員を指導すべき立場にあったにもかかわらず,派遣労働者等の立場にある女性従業員らに対し,職場内において1年余にわたり上記のような多数回のセクハラ行為等を繰り返したものであって,その職責や立場に照らしても著しく不適切なものといわなければならない。
 そして,従業員Aは,Yらのこのような本件各行為が一因となって,本件水族館での勤務を辞めることを余儀なくされているのであり,管理職であるX1らが女性従業員らに対して反復継続的に行った上記のような極めて不適切なセクハラ行為等がYの企業秩序や職場規律に及ぼした有害な影響は看過し難いものというべきである。

原審は,Xらが従業員Aから明白な拒否の姿勢を示されておらず,本件各行為のような言動も同人から許されていると誤信していたなどとして,これらをXらに有利な事情としてしんしゃくするが,職場におけるセクハラ行為については,被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも,職場の人間関係の悪化等を懸念して,加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少なくないと考えられることや,本件各行為の内容等に照らせば,仮に上記のような事情があったとしても,そのことをもってX1らに有利にしんしゃくすることは相当ではないというべきである。
 また,原審は,X1らが懲戒を受ける前にセクハラに対する懲戒に関するYの具体的な方針を認識する機会がなく,事前にYから警告や注意等を受けていなかったなどとして,これらもX1らに有利な事情としてしんしゃくするが,上告人の管理職である被上告人らにおいて,セクハラの防止やこれに対する懲戒等に関するYの方針や取組を当然に認識すべきであったといえることに加え,従業員AらがYに対して被害の申告に及ぶまで1年余にわたりX1らが本件各行為を継続していたことや,本件各行為の多くが第三者のいない状況で行われており,従業員Aらから被害の申告を受ける前の時点において,YがX1らのセクハラ行為及びこれによる従業員Aらの被害の事実を具体的に認識して警告や注意等を行い得る機会があったとはうかがわれないことからすれば,X1らが懲戒を受ける前の経緯についてX1らに有利にしんしゃくし得る事情があるとはいえない。
行為一覧表X1の行為一覧表 
1 X1は,平成23年,従業員Aが精算室において1人で勤務している際,同人に対し,複数回,自らの不貞相手と称する女性(以下,単に「不貞相手」という。)の年齢(20代や30代)や職業(主婦や看護師等)の話をし,不貞相手とその夫との間の性生活の話をした。
2 X1は,平成23年秋頃,従業員Aが精算室において1人で勤務している際,同人に対し,「俺のん,でかくて太いらしいねん。やっぱり若い子はその方がいいんかなあ。」と言った。
3 X1は,平成23年,従業員Aが精算室において1人で勤務している際,同人に対し,複数回,「夫婦間はもう何年もセックスレスやねん。」,「でも俺の性欲は年々増すねん。なんでやろうな。」,「でも家庭サービスはきちんとやってるねん。切替えはしてるから。」と言った。
4 X1は,平成23年12月下旬,従業員Aが精算室において1人で勤務している際,同人に対し,不貞相手の話をした後,「こんな話をできるのも,あとちょっとやな。寂しくなるわ。」などと言った。
5 X1は,平成23年11月頃,従業員Aが精算室において1人で勤務している際,同人に対し,不貞相手が自動車で迎えに来ていたという話をする中で,「この前,カー何々してん。」と言い,従業員Aに「何々」のところをわざと言わせようとするように話を持ちかけた。
6 X1は,平成23年12月,従業員Aに対し,不貞相手からの「旦那にメールを見られた。」との内容の携帯電話のメールを見せた。
7 X1は,休憩室において,従業員Aに対し,被上告人X1の不貞相手と推測できる女性の写真をしばしば見せた。
8 X1は,従業員Aもいた休憩室において,本件水族館の女性客について,「今日のお母さんよかったわ…。」,「かがんで中見えたんラッキー。」,「好みの人がいたなあ。」などと言った。
以上
 
X2の行為一覧表
1 X2は,平成22年11月,従業員Aに対し,「いくつになったん。」,「もうそんな歳になったん。結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで。」と言った。
2 X2は,平成23年7月頃,従業員Aに対し,「30歳は,二十二,三歳の子から見たら,おばさんやで。」,「もうお局さんやで。怖がられてるんちゃうん。」,「精算室に従業員Aさんが来たときは22歳やろ。もう30歳になったんやから,あかんな。」などという発言を繰り返した。
3 X2は,平成23年12月下旬,従業員Aに対し,Cもいた精算室内で,「30歳になっても親のすねかじりながらのうのうと生きていけるから,仕事やめられていいなあ。うらやましいわ。」と言った。
4 X2は,平成22年11月以後,従業員Aに対し,「毎月,収入どれくらい。時給いくらなん。社員はもっとあるで。」,「お給料全部使うやろ。足りんやろ。夜の仕事とかせえへんのか。時給いいで。したらええやん。」,「実家に住んでるからそんなん言えるねん,独り暮らしの子は結構やってる。MPのテナントの子もやってるで。チケットブースの子とかもやってる子いてるんちゃう。」などと繰り返し言った。
5 X2は,平成23年秋頃,従業員A及び従業員Bに対し,具体的な男性従業員の名前を複数挙げて,「この中で誰か1人と絶対結婚しなあかんとしたら,誰を選ぶ。」,「地球に2人しかいなかったらどうする。」と聞いた。
6 X2は,セクハラに関する研修を受けた後,「あんなん言ってたら女の子としゃべられへんよなあ。」,「あんなん言われる奴は女の子に嫌われているんや。」という趣旨の発言をした。
 以上
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